-----エピローグ 「わたくし、副皇帝エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインの名を語り皇帝が恩赦を与えんとしていた帝国の功労者に対しこのような謀略を働いたこと。いくら長年評議会を支えてくれた者たちとは言え残念ながら、許すことは出来ません」 「今回の目論見に関与したもの達には罰を。そして彼らの一族路頭全員に帝都よりの放逐を命じます。今後一切、ヨーデル・アルギュロス・ヒュラッセイン皇帝陛下の許しなく帝都へ戻ることはまかりなりません」 長い台詞を一気に言い終えて、エステルはザーフィアス城前の広場に集まった民衆たちを大きく見渡した。高く澄み渡った青空のもと、予定通り行われたエステルの副皇帝就任の式典でエステルは自分の後見であった評議会の粛清を発表した。 誰にも悟られないように小さく詰めていた息を解いて、エステルは透けるような碧の瞳を僅かに曇らせる。 ここまでくるのに払った犠牲は大きかった、と。 側に立つ護衛役のフレンを見上げれば彼も同じように、どこか後悔を滲ませた瞳を押し隠すようにこちらを見つめている。 「エステリーゼ様」 躊躇いがちに呼ばれた名前に正装用のドレスの裾を翻して振り返る。 「僕は今回のことがどこまで仕組まれたものだったのかは問いません。評議会の過激派に対する粛清は、騎士団にとって最も頭の痛い問題…それをエステリーゼ様が片付けられたことに感謝いたします」 「フレン、」 律儀に下げられた太陽の光を捩って集めたような金色の頭を見下ろしてエステルは困ったように、桜色の頬へ指を這わせた。真実を告げることは簡単だ。けれど、そうすれば名を捨ててまで他方を選んだ彼の意思に反することにはならないだろうか。迷ってエステルは曖昧な笑みを浮かべるに留まる。 フレンはきっと凛々の明星が仕組んだ今回の企みにどこか気が付いている節がある。それに、生きていればかならず、互いの耳に届くなにかがあるだろう。 エステルは薄いまぶたを一度しっかりと閉じてから、もう一度柔らかな陽光の降り注ぐ広場の群集を見下ろす。 一人一人の顔を見分けることは出来そうにないが、確かに彼は短く肩口で切りそろえた髪を揺らしてエステルの副皇帝就任演説を聞いたはずだ。 「…今日も、いい天気ですねぇ」 彼の歩んでいく世界が今度こそこの広場のように穏やかな陽光に包まれた道であるように、そっと願いを込めてエステルはバルコニーを離れた。 |
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