悲しいとか、痛いとか、苦しいとか。 弱い感情を吐くのがひどくおそろしい。 嬉しいとか、感動、愛情。 そんな陽の感情を知られるのがひどくこわい。 これだから。 そう切られる言葉にひどくおびえる。 それが日常。 「――――っ、」 何かを言いかけて赤い髪のこどもは一言も発することなく口を閉じた。そして再び目の前の食事に没頭する。 食事の席は寛大だ。 アニスはティアと談笑をしているし、ときおりそれにガイが交じる。誰も常のようにこどもに敵意や反感を向けたりはしない。 例え誰かが言った冗談にこどもが笑ったところで、それはそれ。と済ませられる寛容さをもつ唯一の時間。 けれど、そんなことを理解できないこどもは口をきゅっと結んでいる。 先ほど開きかけた言葉を食事と一緒に飲み込む姿をジェイドは黙って見つめる。 …まだ七つなのだ。 その言葉はあまえでしかないが、本来ならば喜びや悲しみを真直ぐに湾曲することも、隠すこともなく表していい年だ。 だが、こどもはそんな些細なことにすらためらいを感じている。 自らの罪に負け、強くなった周囲からの風当たりに萎縮してしまった。否、怯えてしまった。 まともな人間関係を築いたことすらないのだ。黙って己の罪以外なにも感じないふりをする以外、少ない脳みそはひねり出せなかったに違いない。 こどもをそんな風に追い込んだのは、紛れもなくジェイドをはじめとした仲間たちだ。 自分の行動に後悔はしていないが、些細な冗談に笑う資格があるのかと言いたげに瞳をゆらめかす姿は、苛立ちと哀れみがわいた。 「ルーク、」 「…え?」 食事が終わり、全員が三々五々と買出しや部屋へと向かう途中ジェイドは所在なげに部屋へ向かおうとしていてたルークに声をかけた。 「怪我をしているのではないのですか?」 その言葉にこどもの表情がひきつる。 だが元来の強情さが頭をもたげたのか、そんなことはない。と言葉を切られた。言葉と裏腹にこどもはとっさに利き手である左手首を庇ったことに気がついていない。 「わたしの目を誤魔化せるとでも?」 「…俺と、話をするのも嫌なんじゃないのか?」 左手を掴もうと手を伸ばせば、こどもは一歩体を引いてそんな言葉を吐いた。 「ひとが心配してやればその言い草ですか」 ぐっ、と強く手首を握ってやれば小さく悲鳴の形に顔をしかめた。 細い。 剣術を習い、これ見よがしに腹筋を見せびらかしているというのに予想以上に細いその骨の感触に逆にジェイド自身が驚いた。しかしその驚きは表面にでることなどない。 むしろ、顔をゆがめるほどの痛みに悲鳴一つあげなかったことに腹が立った。 否、哀れみが受け入れられなかった事に腹が立ったのかもしれない。 冷静に分析してジェイドは手を放す。 「後でガイに薬を届けさせます。自分の怪我くらい悪化する前に自分でどうにかするものです」 言い放つと彼とは反対方向へ苛々と歩き出す。 その背中に小さく蚊の鳴くような声で感謝がのべられると、胸の中の苛立ちがわずかに軽くなったように思われて、ジェイドは後ろを振り返った。 そこにこどもの姿はもうなかった。 |
花いっぱいの愛情 |