「ボスってのは、ギルドの真ん中でシャンと立ってなさい」 そう言って腰のあたりを強い力で叩かれる。 ぼすん、といい音がしたのはかばんの中に詰め込んだ布類に当たったからだろう。 僕は、ちょっとだけ迷惑そうな顔をして僕を叩いた男の方を振り返る。黒髪に無精ひげと鮮やかな色の羽織。年齢なんて気にもしてない伊達男。 「レイヴン、そんなに僕が心配なの?」 そう告げれば彼は一瞬驚いたような顔をして、そして口元を歪めるように相好を崩した。 「そりゃぁそうよ。大事な大事な凛々の明星の首領だもん」 「ふぅん?」 「それにね、カロルくん。最近急に身長伸びたじゃない?こういう頃合にきちんと背筋付けておかないとおっさんみたいに猫背になっちゃうのよ〜」 ほら、と言っていつもだらりと力の抜けている背筋を見せてこちらに同意を求めるように頷いた。 確かに猫背はちょっと嫌だ。 でも本当は弓を引くレイヴンの背筋がぴんと張るのを知っているから、あんまり信憑性がない。もう一度生返事を返して僕はダングレストのいつでも赤い空を見上げた。 ここ1年で延びた身長はユーリには届かないものの、どうにかエステルを追い越して次の射程圏内にレイヴンを捉えている。 「…せめてレイヴンよりは大きくなりたよね」 思わず考え事を口にしてしまい、しまった!と思ったときには時既に遅し。 「少年までそんなこと…!わわーん、あんなに可愛かった少年はどこにいっちゃったのよー!!」 「わ、悪かったてば!大丈夫!僕―――」 「僕はおっさんより必ずでかくなるからさ、ってか?」 ぽふりと頭に載せられた大きな手のひらの感触と言葉に、上空を振り仰げばそこには長い黒髪をひとつに結い上げた男がにやにやとした笑みを貼り付けてこちらを見ていた。 「ユーリ!」 「せ、青年までっ!みんなしておっさんが小さいことでいじめる気ね!」 「つーか、今更身長のデカイ小さいで悩む年頃でもねーだろうが」 ため息のような言葉にそういえばレイヴンももう、いくつになったんだっけと考えて思わず笑わずには居られない。そういえば、彼は僕の父親だと名乗ったところで不自由しないような年齢なのだ。 「そうだけどぉ」 「カロルも。おっさんの与太話に付き合ってねぇで、全員にそろそろ集合かけねぇとな」 ユーリの言葉に慌てて時計を覗き込めば、確かに全員に自主訓練を命じてから随分と時間が経ってしまっている。あぁ、こりゃ皆から不満が出るだろうな。と思って小さく肩を落とす。 「じゃ、僕みんなに集合かけてくるから」 「おお」 じゃ、と何時の間にか大きくなった手のひらを振り上げて走り出そうとしたところでふと、座り込んだままの鮮やかな色の羽織が視界の隅に入って、勢い良く後ろをもう一度振り返る。 「レイヴン!」 「およ?少年?」 「僕、ちゃんと背筋のびてる?」 意識して背筋を伸ばしていたから、違うとは言われないだろうと思っていたのにレイヴンは少しだけ灰碧の瞳を細めて「もう少し」と笑った。 なんとなく、彼の言いたい意味がわかってしまって。僕はもう一度シャンと背筋を伸ばしなす。 「ユーリ!ユーリもレイヴン慰めたら集合だからね!」 「わーってるよ」 面倒くさそうな声を背後に最近新しくしたばかりの靴で、柔らかな緑を踏みしめて仲間のもとへと急ぐ。 夕焼けが近い。 もっと背が伸びたらこの空はもっと近づくだろうか。ユーリの身長まで追いついたら、世界はもっと違って見えるだろうか。 「あ、首領―――!」 遠くから自分を呼ぶ声に、勢い良く振り向けば疲れて勝手に休憩をしている仲間たちの姿が見えた。 つづき/おっさんとユーリが出てくるおまけ↓↓↓ 夕闇の迫る赤っぽい空に少年の姿が消えていくのを見送って、レイヴンは自分の羽織の裾を掴んだままぽかん。と誰も居なくなった野原を見つめる青年の手のひらを二度叩く。
「青年?」 「あ、悪ぃ。つかなに、あれ」 思わず指差す青年に行儀が悪い。と突っ込みをいれつつレイヴンは口元を和らげて羽織から引っぺがした手の甲に口をつける。 「…青年はもうすこぉしだけ、カロルくんの前だけでもさ。猫背になればいいのよねぇ」 「はぁ?!」 意味が分からない。と眉を寄せる額に笑えってよいせ、と立ち上がれば少しだけ高いところにある暗紫の瞳が、カロル少年が去っていった方向を見仰いでいる。 僅かな幼さを残していた彼の頬から、いつの間にかそんなものが消えうせていたことに気がついて思わず灰碧の瞳を見開いた。 「そろそろ、少年を青年って呼びなおさないとダメかしらねー?ユーリ」 「だから、何の話なんだよさっきから」 「未来のお話でしょ?」 「はぁ?」 柔らかな下生えの草を踏みしめて、空を仰ぐ。 「青年もいつかおっさんって呼ばれる日がくるってことよ!」 |
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