Diamond Ф Bangle

*マイソロ2設定ジェイルク
 (ルークはグランマニエ公国の貴族。皇帝はピオニー陛下。ジェイドはルークの護衛兼家庭教師。アッシュはルークの双子の弟。)
*捏造最多。

*おkな人だけどうぞ。








「世界って広いんだなぁ」

ぽつり、と床の上に小さくしゃがみ込んでまだどこか幼さの残る頬に両の手のひらを添えたまま子どもがつぶやいた。

「…ジェイド?」

いるか?
と心もとない声と供に船の右舷にある通称科学部屋の扉がそっと開かれたのは、昼食の時間を過ぎた頃だった。
普段科学部屋では、リフィルやハロルド、フィリアたちがそれぞれ世界樹再生のための研究を行っているのだが、偶然にも今朝からハロルドとリフィルはディセンダーの彼を連れてニアタの力を借りるべく出かけている。
久しぶりに一人で頭の整理が出来ると思っていたジェイドは、紅い瞳を眇めて分厚い本を閉じた。

「ルーク、一人で出歩くのは感心しませんよ」

部屋に足を踏み入れれば、不気味な液体の中に浮かぶモンスターの姿や机の上に散乱した書類と文献にこどもは僅かに眉を寄せた。

「船の中くらい大丈夫だろ」
「それがどっこい、何があるかわかりませんからね。グランマニエとして売れるだけの恩は売っていますが、如何せんそれで買える安全など高が知れているでしょう」
「…ここの人たちは優しいよ」

ぷい、と斜めに避けられた視線が揺れる。
彼がこうした打算があまり好きではないらしいことは、長く家庭教師として側にいる自分だからこそわかることではあるが、それは貴族として皇帝の側にある身分の者としてはあまりにも危うい。
ルークはあまりにも優しすぎるのだ。
ただ、彼自身もそこが貴族として名を連ねるに当たっての欠点であるという自覚はあるのだけが唯一の救いではある。

「アッシュのことといい、アドリビトムの方々は困っている人を放っては置けないようです。いつ、貴方を狙う者がそうしてギルドに忍び込んでくるのかわからないのに?」

強い新緑の瞳がジェイドを捉えて、高く睨み上げられた。

「アッシュのことは!アッシュが悪いんじゃない、そうしなければならなかった国が…父上や母上が…」

ほんの数分早く生まれてきた自分と、遅く生まれてきたがために生まれながらに兄が死んだときの身代わりとなるように僧院へ預けられた双子の弟。
悲劇的な説話にはもってこいの話ではあるが、残念ながらグランマニエの高位の貴族の間では決して珍しいことはではないのが現状だ。
家を守るため、相続争いなどないように。
そんな家や家督や領地といった目には見えにくいものを守るためだけに捨てられた者の苦しみなどジェイドをしても想像の域を出ない。
だが、同じ血と細胞を分け合った目の前の子どもにはそれがわかるのだろうか。新緑の瞳の縁に朱がさしている。

「すみません。困らせたかったわけではないんです。ルーク」

泣かないでください、と夕陽色の短い髪に指を通せば、さらりと手触りの良い髪が流れていく。

「泣いてなんかぬぇ!ていうか、ジェイドがちっとも部屋に戻ってこないから…!ティアは大佐の邪魔しに行ったらだめだってしか言わねぇし、ガイも。科学部屋はダメだって」
「…寂しい思いをさせてしまいましたね」

すみません、と指を通した頭を自分の胸に押し当てる。
小さな頃はよく、皇帝の命でルークの護衛から外れなければならないたびにこうして寂しいと泣かれたものだ。けれど、当然のようにもう数年こうしてルークが子どもじみた行動を取ることはなくなっていた。
分別がつくようになったのだと誰もが思っていたのだが、真実はそうではなかったらしい。
ジェイドは小さくつめていた息を吐いた。

「アドリビトムにきて、たくさんの事が起こって心細かったんでしょう?自分が知らないことが多い世界は不安だ。でも、わたしは貴方にあの屋敷以外の世界を見せることができて本当に良かったと思っています」
「?」
「世界は広い。私だって知らないものはたくさんあります。ニアタの話は聞きましたか?彼らは六千年も誰にも会わずに居たらしいですよ」

ろくせんねん。
子どもが呟いた年月はあまりにも途方も無い。
夕闇を模した色だと我らが皇帝陛下の笑う軍服の袖がきゅ、と掴まれる。見下ろせば新緑の瞳とかち合った。

「いろんな話、教えてくれよ。俺のところには全部なんて伝わってこない。もっと知りたいけど、部屋から出るのはダメなんだろ?だったらお前がちゃんと毎日教えに来い」
「そうですね。その前にパニールにお茶を淹れてもらいましょう、ゆっくりと。ね」

口の端を上げるだけの笑みを見せれば、子どもは大きくなずいた。



るり