Diamond Ф Bangle


 もっとずっと続けていくはずだった二人きりの旅は、丁度メルトキオに程近いあたりで断ち切られるように終わりを告げた。
 急ぎの手紙を受け取って、急に家に帰ることになったと話すロイドくんを止められる筈もなく、立ち尽くすように頷いた。
「寄り道しないで帰ってよ。ハニー」
「お前じゃあるまいし…ま、急いでいることだし。ここからは余計なことには首を突っ込まないよう努力するよ」
 真昼間の街道はメルトキオの街まで真っ直ぐな白い砂作りで固められ、陽光を目映く乱反射させる。湧き出た寂しさから視線を地面へと逸らせば、真昼の太陽が濃い影をその上に作り上げていた。
「ほんと、ほんと。ハニーってばどうしてこうって言うぐらいトラブル呼び込むからねぇ」
 はぁ。と大げさにため息をついて見せるが、本人はいたって涼しい顔だ。
 度を始めた頃より僅かに伸びた髪に、また少し逞しくなった外見。そして何より、もうすぐ旅を終わるのだという実感が出会ったばかりの頃の子どもじみた気配を消し去りつつあった。
「ま。それはお互い様だろ?」
「なっ、ロイドくん!名にそれ俺さまが悪いみたいな言い方やめてくれる」
「言い方も何も、ゼロスが居なけりゃギャンブルでお金をすることも、騙されて身包み剥がされそうになることもなかったわけだしな」
 悪戯っぽく笑ったロイドくんに、ぐっと言葉が詰まる。詰まるというより、全てが事実なので言い返す言葉が見つからないのだ。
 身包み剥がされそうになったのは、ちょっと綺麗なお姉さんに宿の酒場で誘われて久しぶりにロイドくんには無いぷりんぷりんの肌が拝めるかな。と思ったら実は美人局だっただけで決して悪意があったわけではない。
 ギャンブルだって、一攫千金は男のロマン!だって主張したらロイドくんだってのってたじゃないの!
 というのは多分に言い訳なのだが、その後存分にもめた話題だったのでここでは大人の余裕として我慢しておきたいところだ。
 黙ったままのゼロスが可笑しいのか、ロイドは頬を緩めて真っ直ぐにこちらを見ている。
「…ちゃんと帰るよ。約束する」
「あぁ」
 宣誓、とばかりに上げられた手のひらに自分のそれを合わせる。
 何時の間にか大きさの変わらなくなった手のひらに、成長期なんだなぁと年寄りじみた感想を持つ。それから大きく、ふたつの手のひらを高く打ち合わせて同じ高さになった目線で目配せあう。
 ひと呼吸の空白。
「じゃぁ、気をつけて」
「ハニーも。寂しくなったら俺のところまで飛んできてね〜」
「我慢勝負か…まいった。負ける気がしない」
「ちょっ、」
 そのまま手のひらが離れて、指先が別れる。
「全部終わったらまた、旅しようなゼロス!」
 歩き出したロイドの姿を追うようにふり返るが、後姿はバイバイと手を振るばかり。ゼロスは返事をし損なった口で大きなため息をつくと、ガリガリと頭をかいた。

「なんか…俺さま負ける予感満々なんですけど?」

 小さな呟きはどんどん小さくなっていく背中に届かぬまま、青空に消える。
 それが、まさか長い別れになるとは思っていなかった。


********


「ブランディス!」
 大きな夕日がとろけるように大地に吸い込まれていくその最後の金茜の光の中で、少女は術の発動と同時にその両手に握ったエンジェルハイロゥで円を描くように周囲の敵を一掃する。
 それが最後の敵で、少し離れて立っていたゼロスはパチパチと手を叩いてお疲れ様。と声をかけた。
 二人っきりでロイドを探す旅は、戦闘ひとつするにも大変だ。
 重い荷物を持ったまま戦うのも大変だし、かといってどこかに置いたまま戦うのも問題がある。ということになって、二人で交互に戦うことにしたのだ。
 勿論、ひとりで戦うには辛い相手も多い。その時はにべもなく逃げることにしているのだが、それは元再生の神子さまゆえの秘密だ。だってまさか、逃げてきちゃいました。で笑って許されたとしても何だか格好悪いし。
「あーぁ。お腹すいちゃった」
「今日は戦闘しまくったもんなぁ」
 うーん、と体を伸ばすコレットにゼロスも肩や首を鳴らしながら苦く笑う。
 今朝街を出てから、もう片手で足りないほどの戦闘を繰り返したために予定の半分ほどしか行程が進まなかったのだ。それに、薄闇に近いこの時刻ではもう戦闘を避けて走ったところで日没までに次の街にたどり着くことは不可能だ。
「ということで、今日は」
「野宿?」
「…ごめんねぇ、ちょっと手間取りすぎたかな」
 大きな空色の瞳でコレットが困ったように言う。その愛らしい仕草に僅かに肩を竦めて、ゼロスは戦闘中足元に置いていた荷物を肩に背負った。
「暗くなる前に寝床探ししておこうぜ」
「うん」
 野営をするのに、魔物が闊歩するような平原も闇の深い森の中もあまり適切ではない。平原の方が未だましではあるが、水場も遠いし何より身を隠すものが何もないのが自分たちにとっては一番の難点だ。
 まさかコレットと二人で身を隠すものが何もないところでは、着替えにも困ってしまう。どうしようも無くなれば顔さえ背けていれば問題ないのかもしれないが、それでも年頃の少女にそれはあまりにも不憫だ。
 だからせめてと水場の近い森か林に入ろうと並んで歩き出す。
「重いでしょ?これ、持つね」
 コレットが荷物の一番外側に吊り下げてあった皮袋をひとつ手にとって言う。
 道中、非戦闘役が荷物持ちをするのは自然と決まったルールではあったけれど、実際のところゼロスはコレットに荷物持ちをあまりさせたくは無い。過去に一度、食糧とアイテムを全滅させれてからは特に。
 無下に断るのも気がひけるので、一応女の子に荷物を持たせるなんて俺さまの流儀に反する!そう言ってはいるのだが、コレットはコレットでどちらの役でも荷物を持ちたがった。
 だから背負った荷物からコレットが何を手に取ったのかわからずに一瞬ドキリとしたのだが、明らかに軽くなった荷物に感謝の言葉を述べる。
「それにしても、ハニーはどこに居るんだか」
「ほんと!ロイド見つけたら怒ってやらなくっちゃ。あたしたちに何にも協力させないなんてダメだって」
「…言えないようなことしてるからだったりして?」
 まさか、ね。
 自嘲気味に口元を歪めて、話題を変えようとしたとき隣に立っていたコレットが表情を固くした。
 あぁしまった怒らせたかな。そう重い、言い訳を口にしようとしたゼロスの目の前でコレットの唇が音にならない名前を刻んだ。
「…コレットちゃん?」
 聞き取れずに、強張ったコレットからゆっくりとその視線の先を追う。
 夕闇が支配し始めた林の向こう側。
 幹と幹の僅かな隙間にたたずむ人影。
 逆立てられた髪に、彼が好んだ赤色の上着。
 その手に握られたガグンラース。

「ロイド!」
「ハニー!」

 高低の声が同時に彼の名前を呼んだ。
 その声を合図に、それまでこちらに対峙するように立っていたロイドが飾り紐を翻して走り出す。即座に体が動いたのはコレットで、立ち尽くすゼロスのすぐ側を矢のように走り抜けていく。
 どちらに向けるともなく伸ばした右手が金糸の残像を掴んだ。
「きゃっ!」
 飛び出したコレットの長い影が、ロイドの立つ草原に届くよりも前に短い悲鳴があがる。
 その場にいた全員の視線が闇の中でさえぼんやりと浮かび上がるような白い衣装に注がれてみれば、悲鳴の主は何かに躓いたらしく顔面から盛大に転んでいた。その上、少女の胸の下には先程ゼロスを手伝うと外された川の袋が中味を押しつぶされてびしゃびしゃに濡れている。
 距離があるとその液体がなんなのかは判りにくいが、ゼロスにはそれが何なのか即座に理解できた。
 荷物の中で液体になるようなものは、ひとつしかない。
「…食糧」
「ううーびしょびしょだよぉ」
 濡れた服を肌から引き剥がすようにしながらコレットが起き上がる。怪我をしている素振りはない。
 それを確認したのか、一度は悲鳴に立ち止まって様子を見ていたロイドが再び走り出そうと背を向けた瞬間、コレットがあらん限りの声を上げた。

「ロイドっ!お腹すいた―――――!」

 天を貫くような声に諦めたのか鳶色の瞳が再びこちらを向いた。


******


 完全に闇に落ちた大地に焚き火を焚いて、小さな鍋いっぱいに刻んだ野菜とミルクと香辛料を入れて煮込む。
 ロイドの食糧袋はつい最近蓄えを増やしたばかりらしく、肉も野菜も豊富に入っていた。
「いやぁぁ、助かったわ。ハニー」
「ほんとほんと。あれ最後の食糧だったもんね」
 アマンゴとミルクしか入ってなかったけど。
「…お前ら」
 がっくりとうな垂れて、ロイドが深いため息をつく。それを身ながらコレットと二人、昨日の街で食糧補給忘れちゃったんだから仕方ないだろ。と唇を尖らせて抗議すれば、ロイドは揺らめく火の影で微かに笑った。
 料理をしている間も言葉少なで、今も言葉ひとつひとつを選ぶように探して話をする。その姿に違和感を感じながらも、これまでの邂逅を鑑みれば一方的に『センチュリオンコアをよこせ』だとか『………』としか話さなかったのだから、会話になるだけかなりの進歩ではある。多分。
「でもコレットのドジは祝福されてるのに、珍しいな。食糧だめにしちまうなんて」
 シチューが最後のひと煮立ちするのを待つために鍋に蓋をするロイドを身ながら、でも。とコレットが口を開いた。
「でもね。食糧だめにしちゃったけど、ちゃんと。ロイドとこうして会えたよ?」
「ねーゼロス」
「ねーコレットちゃん」
 二人で頭を寄せ合うようににっこりと笑うとロイドは驚いたような顔をしてそれから、困ったように鳶色の瞳を翳らせる。
 ―――ハニーは俺さまに会いたくなかった?
 思わず翳ったその瞳にそう問いたくなって、ゼロスは精一杯の理性を総動員してきゅっと形のいい唇をつぐんだ。
 脳裏に夕刻の出来事がちらつく。
 夕闇がとける夕日を飲み込む直前のまろい金色と藍の隙間で、茂った林に消えようとする後姿と翻る見慣れた飾り。
 今思い出してもちょっとあれはショックだった。
「俺さま、女の子にだって逃げられたこと無いのに…」
「は?」
 無意識に口にした言葉に素っ頓狂な返事が返って、驚いたように顔を上げれば目の前にはシチューの入った椀を持ったロイドが鳶色の瞳をまん丸に見開いて立っていた。
 状況が理解できずにお互いに大きな瞬きを二度三度繰り返すと、隣からコレットが笑いを堪えて助け舟を出した。
「ゼロス、シチュー冷めちゃうよ」
「あ、え。あぁ。ありがとう、ロイドくん」
 温かな椀を受け取って、焚き火を囲むようにして食事を始める。
 朝から肉だ炭水化物だなんてものを食べていなかったところに、煮られた野菜はほっこりして美味しいし、夜気に冷える体を温めてくれるものだから疲れの溜まっていた体は贅沢にも今度は眠気を求めてくる。
 食事の間から、コレットはこれまでの旅のことを一生懸命に話して聞かせていたのだが椀が空になってしばらくしたくらいから、その会話が時々途切れて金糸の髪が時折大きく船を漕ぐ。
「コレットちゃん、もう寝たほうがいいんじゃないのー?」
 小さな白い手から椀を奪い取りながら話しかけると、半分しか開かない金色の扇でまだ眠らない。ロイドに話、聞いてない。そう虚ろな声で返事をする。仕方がないので後ろにひっくり返ったりしないかとヒヤヒヤしながら見守っていたのだが、結局同じような質問を何度かした後ついに寝入ってしまった。
「疲れてるんだから最初から寝りゃいいのに」
「ゼロスもコレットのおもりが板についてきたな」
 二人がかりでコレットを寝床にした木の窪みに寝かせて、毛布を肩までかけてやる。その仕草を見ていたロイドが感慨深げにつぶやいた。
「はぁ?」
 フェミニストである自覚はあるが、コレットのおもり役という自覚はない。不服で唇を尖らせて隣に立っていたロイドを見上げれば、彼は穏やかな顔で眠る幼馴染を見ていた。
「だって、前はそういうの俺の役目だっただろ」
「…そうだっけ?」
「そうだよ。あの頃は、コレットのことは俺が一番良く見てるんだと思ってた」
 懐かしそうに目を細めるロイドにゼロスも、そうだな。と思う。
 でも。
「でも最後には俺さまのこと見てくれたじゃない、ハニー?」
「どうだったかなぁ〜」
「ちょっ」
「最近物忘れがはげしくってさ」
 左のこめかみにぬばたま色のエクスフィアが嵌められた手のひらを添わせて、本気で困ったような顔をする。慌ててロイドの肩を揺さぶると、笑いながら忘れるわけない。ていうか忘れられない。そう応えたので渋々許してやることにする。
「コーヒー煎れるよ」
「あぁ。俺もロイドくんにじっくり聞きたい話もあるしね」
 まだ名残のような笑みを残したままのロイドが微かに首を傾げて、二人は夢の世界に背を向ける。
 二人の声が煩かったのか、コレットが小さく身じろいだが深い眠りは覚めそうにないまま。


******


 風が渡る。虫が鳴く。
 夜の気配が支配する台地で鳶色の瞳が幽かに揺らめいている。
「半年ぶりじゃねぇの?」
「うん?」
「こうやってさ。二人っきりで話するの」
「もうそんなに経ったっけ?」
 焚き火の炎を挟んで夜の寒さを和らげるために煎れたコーヒーを握り締めて、ロイドが懐かしむように頬を緩めた。
 そのちょっと笑うと幼い表情は旅を中断することになったあの真昼の街道から変わりがない分、今までの頑なな横顔を思い出すと切なくなる。
「なぁ、ロイドくん。俺にできることって…ある?」
 一緒に旅をしたくて、頑なに心を閉ざすロイドの手助けをしたくて、旅をしてきた。ここまで。
 だから、ほんの少しでもいい。真実を話して欲しかった。
「・・・・」
 けれどロイドは黙ったまま、薄いまぶたを閉じてふるふると首を左右に振るのみで何も話そうとはしない。その姿に憐れみよりも苛立ちが勝った。
「俺さま、結構ショックだったんだぜ?」
 友だちを助けるために実家に帰る、なんて言いながらどこかに黙って行ってしまうし。セレスを助けに行って、やっと会えたと思えば『センチュリオンコアを渡さないなら用はない』とのたまう。先刻に至っては、ゼロスの姿を認めた段階で逃げるように背を向けられた。
 思い出しただけでス、と体の中心を詰めたい氷が解け落ちていくような気分になる。
「…それでも、何も言うことは出来ないんだ」
 なのに目の前で、燃え盛る炎の色を映しこんで尚沈んでいく鳶色の瞳にそれ以上の言葉が続かない。
 そういえば頑なに口を閉ざしていた間中ずっと、こんな風に瞳を翳らせていたように思う。ずっとこんな風に耐えてきたのだろうか。
 街に入れば噂の届いた先々でのロイドは、英雄などではなく血の粛清を裏で指揮した悪人だ。たとえ元が英雄であっても、悪い噂はよく届く。そんな耳に入る他人の言葉も自分の言葉も、全てを飲み込んできたのだろうか。
 たったひとりで。
「ずっとそうして耐えて、つらくないのかよ」
 棘を含んだ声音にロイドが弾かれたように顔を上げる。そしてゆっくりと首を傾げた。まるで意味がわからないとでも言うかのように。
「偽者も、俺自身も。かわらないだろう?」
「俺が信じてるのは、今目の前にいるロイドだけだ。あんな正義だなんてちゃらちゃら言う奴を信じられるかって」
 ふん、と鼻息荒く言い切った言葉にしばらく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたロイドが、深く瞳を閉じて微かに笑った。
「ありがとな、ゼロス」
 信じてくれて。
「あたり前だろ?俺さまが信じなくて誰がロイドくんを信じるのさ」
 手を伸ばして、逆立てられた髪の毛を鷲掴むようにぐしゃぐしゃに撫でてやる。そして、せがむように差し出された手を取って座ったままのロイドを抱きしめた。
 また伸びた身長のせいですっぽりとはいかなくなったけれど、胸に押し当てられた顔から籠もった声が返される。
「…コレット」
「あと、ジーニアス…」
「はいはい。そーだなぁ。あとはしいなとリーガルとプレセアちゃん?リフィルさまは…どうだろうなぁ」
 ロイドくんを抱き寄せたまま再生の旅の仲間たちを数え上げながら、小さな星が無数に瞬く宙を見上げた。
 このまま時間が止まればいい。
 お互いの心臓の音が響いて、信じられないほどに心地いい。しばらくそのまま心地よさに身を任せていたら二人同時に小さなあくびが漏れた。
「一緒にいかないか?ハニーの手伝いがしたいんだ。聞くなって言うならもう何も聞いたりしないからさ」
 互いのあくびに苦笑しながらゼロスがぽんぽん、と子どもを宥めるようにやさしく背を叩いてやりながら問う。
「…アルタミラに行く」
「うん」
「リーガルが、ヴァンガードの暴動に巻き込まれたらしいだ」
「……!」
 はじめて知らされる話に緊張が走る。
 思わず背に触れる手が止まった。
「だから、アルタミラに行く」
 今まで行き先など教えてくれなかったロイドにもう一度告げられて、ゼロスはこれは一緒に旅をすることを許されたのかしらと、腕の中のよくはねる髪の毛を見つめた。
「でも…ひとりで行く」
 まるで独り言のような宣言と同時に指先に力が込められてきゅ、と強く洋服を握られた。そして更に体を押し付けるようにゼロスの胸にすり寄ってくる。
 一人で行く、という言葉とは裏腹の行動に戸惑いが混じる。
「ハニー?」
「お前と一緒じゃ、いつか…聞かれてないのに全部言っちまいそうだし」
 そうか。とひと言頷いて腕の中の頭を撫でる。
 どうして言ってはいけないのかとか、鋼の心で言わないように頑張ればいいじゃないかとか。無責任な言葉が胸の中で渦巻いたけれど、ゼロスは小さく首を振ってその考えを打ち消した。こんなに真っ直ぐに信用してもらっているのに、我侭を言えるはずがない。
 けれど、ひとつだけこれだけは譲れないと口を開いた。
「俺さまもアルタミラには行く。…ダメだって言うなら一緒にはいかねぇよ。でもな?俺さまもコレットちゃんも一応再生の神子さまな訳だから、暴動だなんて聞いて放っておけるわけないでしょ?」
 だから、ロイドくんとは別にアルタミラに行く。
 それが一番ロイドの邪魔をせずに力になれる道なのだと信じて。
「ゼロス、ありがとな」
 胸に押し当てられていた顔をあげて、ロイドが真っ直ぐにゼロスを見上げて言った。その目の端が僅かに赤くなっていたのは見ないふりをしたまま、再び強く抱き寄せてその皇かな頬に唇を寄せた。
「ちゃんと、追いかけていくから心配すんなよ」
 耳元で囁いた言葉にロイドはしっかりと頷いた。


(おまけ)
 翌朝、目が覚めたらロイドくんはもう旅立っていて、それを酷くコレットちゃんに責められたのは余談。

Green Lion
2009年9月菜園